Morris of Glasgow社のテーブルが入荷するのはこれで2回目。初めて入荷した時はアッという間に売れたアイテムです。このテーブル、墨で描いたようなブラックウォルナットの木目や、指物のようにシンプルなシルエット、天板の端に施された控えめな装飾が印象に残ります。人気の秘密は、そのように、どこか「和」のテイストを感じさせるところがあるからなのかな、と思っていたのですが、先日、読み終えた本に面白い記述があったので紹介します。
「ジャポニズム、これが19世紀の中頃から後半にかけてヨーロッパで流行る。ジャポニズムというのは日本様式ですね。19世紀の中ごろ、黒船来航以来、日本では船をつくらなければいけなくなった。造船を勉強しなければいけないということで、明治政府の使節が造船の盛んだったグラスゴーに行きます。そういう交流があったのでしょう。日本と色んな物品の交流が生まれる。そういうことがあって、日本というのは全然違う文化なんだ、面白いぞ、ということになったんでしょう。そのグラスゴーにC.R.マッキントッシュという建築家がいます。
実際に彼の設計した建物を訪れてみれば分かりますが、日本趣味みたいなものを明解に見て取れます。グラスゴーに行く人がいたら是非、ヒルハウス(1903)に行ってください。今はナショナルトラストの管理になっていますが、見ることができます。ヒルハウスに行ったら一目で分かりますよ。浮世絵が飾ってあったり、日本の陶器が置いてあったり、空間のつくり方も日本建築をひとつの理想としてつくったことが分かります。」
(「形態デザイン講義」内藤廣より)
「Morris of Glasgow」はその名の通りスコットランドの家具メーカー。僕の推測もあながち間違えではなかったようです。でも、日本の木工の歴史がスコットランドと造船技術でつながっていたとは知りませんでした。マッキントッシュがデザインしたハイバックチェアの幾何学的なデザインは日本建築からの影響だったのですね。言われてみれば「なるほど!」です。
興味をもってヒルハウスを調べてみたのですが、上記の記述どおりMorris of Glasgowのテーブルがぴったりマッチするような室内でした。日本様式にさりげなく差し込まれたアールヌーボーの模様や、まるで要塞のような外観との対比も興味深いので機会があれば是非、みなさんも検索してみてください。
そして蛇足ですが、この文章は以下のように続きます。
「そのマッキントッシュがウィーンで展覧会をやります。今度はウィーンにそのジャポニズムが飛び火します。そこで、ウィーンのいわゆる世紀末芸術が、日本趣味を取り込みながら爛熟していきます。建築においてはヨーゼフ・ホフマン、J.M.オルブリッヒ、オットー・ワーグナーといった人たちです。この人たちの生み出した新しいスタイルをゼツェションと言います。日本に持ち込まれて「分離派」と呼ばれ、特に大正期に大流行しました。幾何学的で単純化された装飾を使うことによって、古い時代とは一線を画す、というのが特徴です。日本から出て行ったものが、ブーメランみたいに形を変えて再輸入されたのが分離派の動きです。」
外来のデザインと思っていたものが日本古来のものであったり、親しみのある日本固有のスタイルが外国から伝来されたものだったり…目を凝らしてまわりをみれば、そこかしこに、はるばるスコットランドから「再輸入」されたデザインがひそんでいるかもしれませんね!